うろこ
美しい存在には心を奪われます。
ゆえに、わたしは波にさらわれた。
ある冬の日、離島への旅行を思い立った。
フェリーから降り、海岸に向かう。
紺碧と白群が揺らめく海景。
太陽の光で煌めいて、胸が高鳴る。
周りには誰もいない。余計に気が緩む。
─もう少し近付けるかも。
海藻は滑りやすいことを忘れ、わたしは素足になる。
見蕩れた海を写真に収めていく。
一瞬の出来事でした。
目の前に立ちはだかる高波が、わたしの足をすくう。
波に引きずられ、巌に頭を打ち付ける。
呼吸ができない。海中に沈められていく。
ザラザラした鋭い岩に捕まり、流されそうな防水ケースの紐を慌てて掴む。
苦しさと困惑が混在するなか、うっすら目を開ける。
ああ、あの巨大な穴に流されたら終わり。
波が返り、陸に置き去りにされる。
塩の味がする。まろやかで、良い塩。
海水を含んだコートのせいで身体は重い。
ぼんやりしていては、また沈められる。
ふらりと立ち上がり、何事もなかったかのように海岸から立ち去る。
島の人々は同情しつつ、温かく接してくださった。
テーピングを受けながら、熱を帯びて腫れる脚を見つめる。
寒い。手足の痙攣が続く。
血が足りないのか寒いのか。
こんなに震えなくてもいいのに、笑えてくる。
わたしが勝手に負傷したにもかかわらず、体内では傷口を修復しようと頑張ってくれている。
流れ続ける鮮血を眺め、自分も動物の一種だと実感した。
海がすきで、恐ろしいと思う。
美しい存在にはご注意を。
足をすくわれるのは、一瞬。